星野源 DOME TOUR 2019「POP VIRUS」(感想)
2019-02-27
星野源のライブ『DOME TOUR 2019「POP VIRUS」』へ。東京ドームの回に参加した。
★初めてのドームツアー
ミュージシャンとしての星野源(以下、ファンの方々の呼称で「源さん」)と聞いて何を思い浮かべるだろうか。
楽曲リリースの面では、2018年の活躍は目覚ましかったと思う。
国民的アニメのひとつ、ドラえもんの映画主題歌を担当。さらに国民的ドラマといえるNHK朝ドラの枠で「半分、青い」の主題歌も歌った。
そして年末には待望の新作アルバム「POP VIRUS」をリリース。2019年にかけて、4週連続ランキング1位を取るなどその勢いはとどまることを知らない状況だ。
その一方で、ライブの機会はほとんどなかった。単独ライブに近い形では、12月に幕張メッセでマーク・ロンソンと行ったダブルヘッドライナーショーくらいだ。
前回の『Live Tour “Continues”』から1年以上の時が経ち、ファンの飢餓感も高まっていた中で臨む初めての5大ドームツアー。2018年を彩った楽曲を携えてどんなパフォーマンスを見せてくれるのか。期待せずにはいられなかった。
★広がるファン層
前回の『Live Tour “Continues”』に参加した時は、女性9割:男性1割くらいの感覚で女性比率がかなり高かった。
それが今回は、カップルや男性同士、親子連れがそれなりにいて、女性7~8割:男性2~3割くらいの印象だった。
ドームで会場規模が大きくなったことや、アニメ・朝ドラの主題歌になったことが影響したのか、老若男女さまざまな人が参加していて、ファン層が確実に広がっているのを感じた。
ファン層の拡大に対応するように、転売対策も整備されている。チケットは電子と紙の2種類があり、今回は電子を利用してみた。
並ぶ列によっては時間がかかるが、入場口でスマートフォン内のチケットを提示すればOK。
最近よくある身分証明書とのセット提示ではなかったので、転売対策として十分なのかどうか少し気になったが、手続きが簡単なのはありがたかった。
★圧倒的な身近さ
花道での弾き語り。これを1曲目にもってくる感覚が、源さんのライブの真骨頂のひとつだと感じた。
多くのアーティストのライブで1曲目は盛り上げ系の曲をもってくる傾向にある。
特に会場規模が大きくなるほど、その傾向は強い気がする。
(※直近で参加したドーム・スタジアムのライブの1曲目 → ultra soul(B'z)、Hero(安室奈美恵)、CENTER OF UNIVERSE(Mr.Children))
観客との一体感を早めに醸成するため、会場全体が盛り上がりやすい曲を最初に演奏することは自然な選択だと思う。
しかし、そこで敢えて弾き語りを選ぶ感覚。演奏が始まった瞬間、これだけの大きな会場で聴いているのにとても身近に感じられた。
ステージでなく、花道を使って会場の中央に立ったのも、身近に感じてもらいたい気持ちの表れだったのかもしれない。
また、ステージに複数設置された巨大なスクリーンでは、源さんとバンドメンバーが絶えず映し出されていた。
ストーリー性のある映像など工夫を凝らしたものを見せるライブもある中で、今回の映像の使い方はとてもシンプル。
少し思いを巡らせてみると、規模の大きい会場だからこそ身近に感じてもらうために、単純接触効果をねらってずっと映し出していたのかもしれない。
これまでの記述はすべて妄想にすぎないけれど、観客との身近な関係づくりを第一に考える姿勢が、ドームライブでの源さんの流儀のように思えた。
★楽しさと驚きのつまった演出がいっぱい
・一流ミュージシャンからのお祝いメッセージ
源さんゆかりの一流ミュージシャン(という名の芸人など)からのVTRを上映する恒例コーナー。
どのメッセージも破壊力ありすぎで爆笑の渦に飲み込まれっぱなし。
・客席でまさかの生演奏
「ばらばら」を歌うために、3塁側のスタンドに現れた姿を見たときは度肝を抜かれた。
消防法の関係で唯一客席で歌える場所がそこだったとか。
そもそも客席でアーティストが歌うなんて発想がまったくなくて、ただひたすらアイデアの斬新さに驚きっぱなし。
・1曲の途中で演奏をとめてMC
「プリン」では、演奏している途中で源さんとバンドメンバーが1~2分まったり愉快なトークを繰り広げ出す展開に。
トークが醸し出す雰囲気から仲の良さが伝わってきて、これも身近さを感じてもらう作戦かなと深読みしてみたり。
・5万人がつくる静寂からのセグウェイ
「アイデア」の特徴のひとつが、途中の弾き語りを終えてからラストのサビに入る前までの一瞬の”間”。
5万人がいる空間がいっとき静寂に包まれるのには鳥肌が立つ思いがした。そして感動のラストのサビへと思った瞬間に登場したのはなんとセグウェイ。
ある種緊張感の高い場面をセグウェイで崩してくるとは…とにかく笑うしかなかった。
・アンコールの事前告知
こちらも恒例のやつ。やることだけでなく曲数も事前にしっかりお知らせ。
アンコールがほぼ必ず行われる存在になっているからこそ、そこを逆手にとって笑いに変えていくのもある種のセンスだと感じる。
★楽しみ方の自由
最後に書いておきたいのが、源さんのライブにおける「自由」について。
多くのライブではいくつかの楽曲に手の振り方のパターンがあるのが一般的だ。
ところが、源さんが自由に楽しんでと呼びかけていることもあり、彼のライブには定型の振りがない。
前回の『Live Tour “Continues”』では、このスタイルに戸惑いを覚える部分があった。
定型の振りに乗っかれば盛り上がりやすいし、周囲との一体感を感じやすいが、それがないためにある種の不完全燃焼感が残った。
そんな記憶もあって今回のライブ前は盛り上がれるのか懸念があった。
けれど、それは余計な心配だった。
そう思えたのは、単純に慣れの部分もあるだろうし、思考の変化による部分もあると思う。
定型の振りの楽しさはライブの醍醐味のひとつ。
その一方で型にとらわれない自由があることで、毎回違った楽しみ方を自分で選べる余地が生まれるのではないだろうか。
「恋」をひとつの例に挙げてみても、寸分の狂いもなく恋ダンスを踊る人もいれば、自然に体を揺らす人もいるし、自分のタイミングで手拍子を打つ人もいる。
型がないからこそ実現できる、一人ひとりの楽しみ方の自由。
多様な楽しみ方をあたたかく認めてくれる雰囲気もまた、源さんのライブの真骨頂のひとつなのかもしれない。
★★★
ドームなのにやわらかい雰囲気でリラックス気分。振り返ってみて、こんな感覚はこれまでのライブではそうなかったと思う。
希代のポップスターが振りまく音のウイルスは今後どこまで広がっていくのか。感染力が強いのでどうかご注意を。